自然災害リスク軽減研究センター

研究テーマ 5

「中核被災者」を主体とした被災限界からの自律再建メカニズムの解明

テーマ

「中核被災者」を主体とした被災限界からの自律再建メカニズムの解明

目的

 本研究では,東日本大震災後の参与観察を通じて,「被災限界においては,公助を担うべき自治体の機能が著しく低下するが,自助や共助を担う「中核被災者」らの主体性の発揮が公助を補い,全体としての地域再建につながる」という仮説を構築した.その検証に向けて,被災自治体の機能喪失の実態と課題を検討すると共に,それらを補う域内外の多様な主体の自律と連携を把握し,被災限界からの地域再建プロセスを明らかにする.特に,被災者でありながら地域再建の中核を担う「中核被災者」および長期かつ組織的に被災自治体を支援する「外部支援自治体」に着目し,いつどこでどのような役割を担い,地域再建はもとより,被災者ひとり一人の生活再建にどのように影響するのかを長期かつ丹念に調査・分析し,被災地の自律再建メカニズムの解明を目指す.

内容

 戦後発生した自然災害において,特に阪神・淡路大震災以降の災害では,“被災地は再建する”ことが前提となってきた.ところが,2011年3月11日に発生した東日本大震災は,あまりに強大な自然外力の前には,“地域(少なくとも行政主体)の再建能力を超える”災害があり得ることを顕示した.このような被災状況を,本研究では「被災限界」と定義する.このような状況では,行政=支援する側,住民=支援される側の構図が成立せず,従来「公助」が担ってきた部分をも被災地域自身の「自助」,「共助」で担わなければならない事態となる.すなわち,外部からのノウハウの提供など行政対応力の強化だけでは被災者支援につながらず,被災者自身が生活再建に必要なノウハウを学びながら,いかに主体性を発揮できるかが真に問われている.本研究では,東日本大震災後の参与観察および従来の研究成果に基づき,「被災限界においては,「公助」を担うべき自治体の機能が著しく低下するが,「自助」や「共助」を担う「中核被災者」らの主体性の発揮が「公助」を補い,全体としての地域再建につながる」という仮説を構築した.研究期間内には,その検証に向けて,まず,東日本大震災により壊滅的な被害を受けた自治体の機能喪失の実態と課題を整理し,被災限界における公助の限界と役割について考究する.また,自治体の機能喪失分を補い,支える域内外の多様な主体の自律と連携を把握し,東日本大震災による被災限界からの地域再建プロセスを明らかにする.今般の災害で特に着目すべき主体は,被災者でありながら地域再建の中核を担う「中核被災者」および長期かつ組織的に被災自治体を支援する「外部支援自治体」である.これら2つの主体が,いつどこでいかなる役割を担い,地域再建はもとより,被災者ひとり一人の生活再建にどのように影響するのかを長期かつ丹念に参与観察し,被災地の自律再建メカニズムの解明を目指す.なお,調査対象地は,発災後から避難所や仮設住宅での生活や協働を通じて参与観察を継続している岩手県陸前高田市とし,調査方法は,参与観察およびエスノグラフィー調査を用いる.