自然災害リスク軽減研究センターの発足にあたり

 「21世紀型自然災害のリスク軽減に関するプロジェクト」が平成24年度私立大学戦略的研究基盤形成支援事業として文部科学省に採択され ,研究プロジェクトを実施・運営する組織として「名城大学 自然災害リスク軽減研究センター」が発足 しました.
 本センターは,高度制震実験・解析研究センター(ARCSEC)(代表:宇佐美勉教授 ,平成19〜23年度の5ヶ年設置)の研究実績を基礎として,新たな研究の展開を図りつつ,研究拠点の基盤を発展的に築くことを目指して研究を推進していきます.

 さて,我が国は戦後65年あまりにわたり,特に平野部において都市域が爆発的な発展を遂げてきましたが,その経済活動が集中している土地の多くは,わずか1世紀前までは湿地帯でありました.先の東日本大震災においての津波被害や大規模な液状化被害が拡大した要因は,この最も被災リスクが高い軟弱な低平地に社会活動が集中している現代日本の社会構造に由来している一面もあります.本センターで推進する「21世紀型自然災害のリス・N軽減に関するプロジェクト」では,海溝型地震や都市直下型地震など大地震時の都市域での被災ポテンシャルとそれに伴う震災リスクを適正に評価し,その軽減をはかることを目的のひとつとしています.また,21世紀型自然災害として地震災害と並んで重要なものは,近年の気候変動に伴い頻発しているゲリラ豪雨とそれに伴う流域圏の水害・土砂災害です.さらに,豪雨と地震の複合災害もやはや想定外とは考えられないほど現実味を帯びています.本センターでは,地震のみならず,豪雨も21世紀型自然災害を引き起こす大きなリスクに加え,それらのリスクを軽減するための減災研究の推進をはかります.
 
 現在の都市基盤を支える社会資本には,高度経済成長期に整備されたものが今なお現役として機能しており,それらの中には当初想定されていた耐用年数を過ぎているものも少なくありません.最近の我が国を取り巻く政治・経済の状況下では,それらを順次更新することは難しく,ましてや耐災害性の高いものに更改してゆくことは一層困難となっています.そのような社会情勢が21世紀型自然災害を助長している面も無視できません.そのため,社会資本の高機能化等のハード的な災害リスク軽減の対策のみならず,現代社会においては,経済的かつ合理的な維持管理手法ならびに補修・補強方法の構築が重要となっています.また,本センターが想定する巨大地震や大規模水害などの自然災害が発生した場合には,都市機能や行政機能が喪失するとともに,膨大な被災者が発生することが見込まれています.機能喪失状態からの被災者自身による自律再建のメカニズムについて十分に検証しておくことは,来るべき災害後から早期復旧・復興するために極めて重要であり,その備えは広義のリスク軽減と位置付けることができます.

 南海トラフ地震が発生する際には,沿岸部での津波被害のみならず,都市域でも地震動による深刻なダメージを被ることが予想されます.また,広大なゼロメートル地帯を擁する濃尾平野では,豪雨水害や複合災害に対するリスクも極めて大きいと予想されます.濃尾地盤の東縁に位置する名城大学にて「自然災害リスク軽減研究センター」を設置し,21世紀型自然災害のリスク軽減を目指す研究プロジェクトを遂行する意義は大きいと考えています.本センターの今後の活動にご期待下さい.

自然災害リスク軽減研究センター 
代表 小高猛司(理工学部教授)