プロジェクトの終了にあたって
2011.3.11のあの日から6年が過ぎました。インフラ整備に携わる研究者として,自分にできること,為すべきことを自問し続けた6年間でもありました。その年の秋に申請した「21世紀型自然災害のリスク軽減に関するプロジェクト」が文部科学省に採択され,運営組織としての「名城大学 自然災害リスク軽減研究センター(NDRR)」が発足しました。ただし,東日本大震災が申請の契機となったわけではなく,名城大学高度制震実験・解析研究センター(ARCSEC)(代表:宇佐美勉・元名城大学教授・名古屋大学名誉教授,平成19〜23年度の5ヶ年設置)の発展的な継承を目指して,研究テーマとメンバーの大幅拡充を図るなど,申請の準備は震災前にすでに整えておりました。しかし,採択には,震災後の社会情勢が少なからず影響したものと思います。「21世紀型自然災害」は研究代表者である私による全くの造語ですが,それを地で行くような自然災害が,本センター発足後にも立て続けに発生しています。私が研究者として歩き始めた頃からの長い間,「震災」と言えば阪神大震災を意味してきました。しかし,今,「震災」と言っても東日本なのか,熊本なのかわからないほど,身の回りに大地震が頻発しています。また,水害についても,観測史上最大と呼ばれる大水害が,毎年のように日本のどこかで,それも複数回発生することも珍しくなくなりました。もはや,自然災害とそれに対する防災・減災が社会の一部となり,我々研究者は浮き世離れした研究だけをしていることが許されなくなりました。本プロジェクトの採択と本センターの設置は,まさにそのような社会からの要請によってなされたものと思っています。
平成24年4月から5年間の活動を行った「名城大学 自然災害リスク軽減研究センター」は,「21世紀型自然災害のリスク軽減に関するプロジェクト」の研究期間の満了とともに一旦解散いたします。名城大学の土木・建築分野で防災研究に携わる総勢20名の教員が本センターの活動に参画しました。20名それぞれが,それぞれのアプローチで,それぞれの想いで自然災害のリスク軽減に取り組んだ成果をまとめたものがこの報告書です。先述の本センターの前身であるARCSECの研究活動では,大地震への備えについて全力で取り組んでいたものの,現実に3.11のような日が来ることを思い描くほどの想像力を私は持ち合わせていませんでした。しかし,本センターの活動期間は,研究メンバー全員が,南海トラフ巨大地震やスーパー伊勢湾台風の発生を現実問題として直視し,研究に取り組んできたことは間違いありません。5年間の研究活動を経て,ハード,ソフト両面において,名城大学に防災・減災に関する強固な研究拠点を形成することができました。その間,研究メンバーの社会的な立場も徐々に変化し,メンバーの多くは,国や自治体,あるいは学会において,事前・事後の自然災害リスク軽減に取り組む活動に参画するようになってきています。自然災害リスク軽減研究センターは解散しますが,「21世紀型自然災害のリスク軽減に関するプロジェクト」を通して形成された名城大学の防災・減災の研究拠点は消えることなく,研究活動をますます活発に継続・発展してゆくことを,メンバー全員を代表してここに約束いたします。
最後になりましたが,本センター発足時から本プロジェクトを全面的にバックアップし続けていただきました吉久光一学長(発足時の理工学部長)をはじめ,学術研究支援センターの船隈
透(前)センター長ならびに原田健一(現)センター長と事務職員の皆さんなど,名城大学のたくさんの関係者に多大なご支援をいただきました。また,防災研究・協力を主体として本学と連携・協力に関する協定を締結し,様々な活動に協力いただきました国土交通省中部地方整備局の関係各位のご支援も本センターの研究活動に大きな励みとなりました。また,研究活動に従事された数多くの本学大学院生と研究員こそ,研究の原動力であり,本報告書に掲載している研究成果の貢献者であります。紙面の都合で割愛させていただきますが,その他にも様々な方々のお世話になりました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
平成29年3月
自然災害リスク軽減研究センター
代表 小高猛司(理工学部教授)