自律再建に向けた「中核被災者」の役割と影響に関する基礎的調査(テーマ5)
【背景と目的】
本研究では,東日本大震災後の参与観察を通じて,「被災限界においては,公助を担うべき自治体の機能が著しく低下するが,自助や共助を担う「中核被災者」らの主体性の発揮が公助を補い,全体としての地域再建につながる」という仮説を構築した(図1).その検証に向けて,被災自治体の機能喪失の実態と課題を検討すると共に,それらを補う域内外の多様な主体の自律と連携を把握し,被災限界からの地域再建プロセスを明らかにする.特に,被災者でありながら公助に依りすぎない自主再建に努め,地域再建に貢献する「中核被災者」に着目し,いつどこでどのような役割を担い,地域再建はもとより,被災者ひとり一人の生活再建にどのように影響するのかを長期かつ丹念に調査・分析し,被災地の自律再建メカニズムの解明を目指す.
図1 被災限界における「中核被災者」の役割と可能性
【研究成果】
本研究では,岩手県陸前高田市内における地域住民主体の避難所および応急仮設住宅の運営実態と課題,仮設施設による地元商店街の事業再開と経営,ならびに,自主住宅移転再建のプロセスと課題を,参与観察およびヒアリング調査によって把握してきた.これらの調査対象事象の共通点は,甚大な被災を受けながら膨大な災害対応業務に追われる行政に頼らず,自ら重要他者とのネットワークを活用し,関連する情報や知識を収集し,土地や建物を選定・取得し,早期の生活や事業の再開を果たしている点である.これらの調査研究成果は以下の通りである.
(1)2011年4月より壊滅的な被害を受けた岩手県陸前高田市に長期滞在し,避難所や仮設住宅での被災者との協働を通じて参与観察を行ってきた.その結果,避難所の開設や避難者の受入れ,安否確認や健康相談,物資調達や配分,外部支援者の受入れ,自治会の発足など,避難所や仮設住宅の運営において被災者が主体性を発揮する場面が多くみられ,被災者自身が支援者になり得てきた.このことは,行政への負担の軽減だけでなく,真に支援の必要な要援護者への資源の再分配にもつながる可能性を示唆した(写真1).
写真1 応急仮設住宅での生活再建プロセスに関するヒアリング調査(陸前高田市)
(2)仮設施設により事業を再開した陸前高田市内の4商店街の代表および店舗経営者を対象として,2013年8月29日から9月1日にわたり,被災後から事業再開に至るプロセスに関する約2時間のヒアリング調査を行った.ヒアリングの内容は,再開の時期ときっかけ,立地場所の選定,従業員の確保,活用した支援制度,各店舗や商店街のコンセプト,本設までの見通しに加えて,来客数や層,売り上げなど経営状況の震災前後の変化を整理した.その結果,スピード重視型や内装・コンセプト重視型など,業種によって「仮設」への考え方や今後の本設に向けた戦略が異なることが見えてきた(写真2).
写真2 事業者努力により早期事業再開を果たした仮設商店街(陸前高田市)
(3)防災集団移転促進事業や土地区画整理事業など公的な復興事業を待たずして,自主住宅移転再建者(自ら情報収集し,移転を意思決定し,早期に土地や家屋を再建した被災者)を対象にヒアリング調査を行った.その結果,自主住宅移転再建者に共通する要件(思考)として,避難所に滞在するも短期で転出する,住宅と土地を2年以内に建設・購入している,市の復興計画や市独自の住宅再建支援とは無関係に再建計画を実行している,子供や高齢者の環境を優先して考える,早く決断しないとアパートや土地がなくなるという危機感を持っている,早期再建の結果,自宅を再建すると被災者と見なされなくなった一方で,早期の住まいの再建により仕事や趣味などに充てる時間が増え,生活が安定するなどの傾向が見られた.
以上の知見を元に,質問紙調査を設計・実施し,大規模災害後の生活や地域の早期自主再建がもたらす効用(復興感)を解明することが今後の課題である.本研究の成果を元に,今後の南海トラフ地震などからの早期自立再建者を増やすための具体方策を提案し,こうした早期自立再建者の動きが,その他の被災者への情報や知恵の提供や地域再建への意欲につながることを実証することを最終目標に据えている.
【関連論文リスト】