粘土基礎地盤上の河川堤防の被災メカニズムに関する検討(テーマ4)
【背景と目的】
平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震において,軟弱粘土地盤を基礎地盤とする河川堤防が大変状する被害が多数発生した。この原因は,堤体下部の閉封飽和域が地震時に液状化したためであると考えられている。閉封飽和域とは,堤防築堤によって粘性土基礎地盤が長期にわたり圧密沈下し,砂質土堤体が地下水位以深まで沈み込むことにより堤体下部に形成される高含水状態の領域のことである。すなわち,東北地方では堤体内に閉封飽和域が多く存在したために,震災前にはあまり想定していなかった堤体自身の液状化による大変状が多数発生したとされている。しかし,この堤体大変状のメカニズムを検討するためには,閉封飽和域ありきで砂質堤体の液状化のみを議論するのではなく,粘性土基礎地盤が地震時に果たした役割を丁寧に評価してみる作業も必要である。そこで本研究では,粘性土基礎地盤上の河川堤防で想定される一連の現象を解析し,東日本大震災によって被災した河川堤防の被災メカニズムを検討する。
【研究成果】
数値解析に先立ち,実際に東日本大震災で被災した河川堤防近傍からサンプリングした粘性土を用いて室内三軸試験を実施し,数値解析に用いる粘性土の弾塑性パラメータを決定した。具体的には,典型的な大変状被害が発生した堤防の堤外地にて,築堤の影響を受けていない粘性土を深度0.5 〜3.5mから採取し,圧密試験と三軸試験( 試験)を実施した。
図1 三軸試験とSYS Cam-clay modelによるその再現
(太線:試験値,細線:解析値)
図1はぞれぞれの深度で実施した三軸試験結果とそのシミュレーションの結果を同時に示したものである。構成モデルは,修正カムクレイモデルに構造,過圧密,異方性の概念を導入したSYS Cam-clay modelを用いている。ただし,今回の解析では異方性の発展は考慮していない。表1および2にシミュレーションで設定した粘性土の初期値と弾塑性パラメータをそれぞれ示す。供試体毎の試験結果のバラツキが大きいので,初期値(初期間隙比,初期構造,初期過圧密度等)は供試体ごとに異なるものと仮定しているが,弾塑性パラメータ(限界状態定数,圧縮指数,膨潤指数,ポアソン比等)は今回すべての供試体に対して同一としている。
図2 有限要素メッシュおよび境界条件 図3 入力地震動
図2に解析に用いた有限要素メッシュおよび境界条件,図3に入力地震動を示す。
図4は地震入力時のx方向変位,沈下,x方向の応答加速度の時刻歴を示す。地震終了時には,盛土の法尻点A,点Dで2.5m側方へ変位し,盛土天端中央点Cで2.5m,盛土中央地盤面点Bで1.7mの沈下となった。水平変位も沈下量も第2波目以降に大きく増加しており,地震動の継続時間が長かったことが,堤防の変状を大きくした主要な要因のひとつであると考えられる。
地震後の挙動について,図5に点A,B,C,Dにおける地震開始時を基準とした変位量を示す。x方向の変位は,法尻部の点Aと点Dでは,地震後に徐々に大きくなる傾向がある。地震開始から730秒付近で,大きなせん断ひずみが生じて崩壊した盛土天端付近の変形がさらに大きくなり,隣接する要素が重なったため計算は停止した。ただし,計算が停止するまでは変形はわずかながら徐々に進行している。そのことから,粘性土基礎地盤上の堤防においては,地震後においても沈下が数年に亘って徐々に継続することが示唆される。完全に切り返して地盤改良などを実施した堤防では問題はないが,むしろ地震時には切り返す程の大きな変状がなかった堤防などにおいて,継続沈下の問題が後になって顕在化する可能性もある。
本研究により,粘性土地盤についても丁寧に弾塑性体でモデル化して検証すると,地震時にも変形が発生していた可能性があることがわかる。さらに,堤体材料についても細粒分を含む中間土的な砂質土であれば,地震動の継続時間が堤体変状の度合いを決める重要な要素であったことがわかる。堤体材料についても丁寧な弾塑性モデルを用いた議論が必要であることがわかる。
図4 地震中の変位量
図5 地震終了後以降の変位量
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