XバンドMPレーダ情報に基づく局地的短時間豪雨の雨域性状の確率論的評価(テーマ3)

【背景と目的】
 近年,都市域では局地的短時間豪雨いわゆる“ゲリラ豪雨”が頻発し,各地で浸水被害が発生している.こうした豪雨はその局所性と突発的な挙動のために,従来の地上雨量計網では捕捉しきれず,豪雨域が時間的空間的にどのような性状であるか不明である.国土交通省では2010年から高精度なXバンドMPレーダを各地に配備し,降雨強度の画像データを1分毎に配信している.本研究では,局地的豪雨による都市河川の洪水流出への影響を評価する第一歩として,XバンドMPレーダによる降雨情報を多数の地上雨量計群を用いて検証したのち,レーダ情報を活用して地上雨量計に基づく流域平均降雨の妥当性を評価するとともに,局地的豪雨の時空間特性を考察したものである.

【研究成果】
 本研究の内容は次の三点に分けられる。まず,@ XバンドMPレーダによる地上降雨の捕捉精度について,名古屋市域に高い空間密度で配置された地上雨量計の観測データとの比較を通じて確認するとともに,A 河川計画等で用いられる地上雨量計に基づくティーセン法による流域平均降雨の有効性についても検証を試みた.つぎに,B XバンドMPレーダ情報に基づき,局地型豪雨の空間特性とその時間的発展について考察した.特に,降雨強度の空間分布にはランダムな成分が含まれることから,ここでは確率場の概念に基づいた統計的な手法によって検討を進めた.本研究の成果は,豪雨の時空間特性が都市河川の洪水流出過程に及ぼす影響について考察する基礎となるものであり,得られた知見は以下の通りである.
(1) XバンドMPレーダによる地上降雨の捕捉精度について,平成23年9月の台風15号による豪雨を対象に高密度の地上雨量計データと比較した結果,レーダ雨量は十分な精度を持つことを確認した.(図-1,図-2)
(2) 地上雨量計に基づく流域平均降雨の有効性について,都市河川である天白川流域および植田川流域を対象にレーダ雨量を用いて検証した結果,ティーセン法によるによる流域平均降雨は一部の雨量観測値に過剰に影響を受けることが示唆された.(図-3,図-4)
(3) 豪雨域の時空間特性について,レーダ雨量を用いて確率論的な立場から検討した結果,得られたバリオグラムはホール効果を備えたもので,雨量の増加につれてsillが増大,rangeは短縮する様子が示された.(図-5,図-6)

    
図-1 検証範囲と地上雨量計の配置        図-2 地上雨量計群によるレーダ情報の検証

    
    図-3 植田川流域の位置            図-4 植田川流域における流域平均降雨の検証

  
図-5 対象豪雨のレーダ雨量分布の例        図-6 対象豪雨におけるバリオグラムの時間的発展
(2013年9月4日16:51)              (2013年9月4日15:50〜17:20)

【関連論文リスト】

  • 原田守博・羽澄貴史:XバンドMPレーダ情報に基づく局地的短時間豪雨の雨域性状の確率論的評価,土木学会論文集B1(水工学) Vol.70, No.4, I_511-I_516, 2014. PDF