広域観測データによる強雨・大雨の地域的特徴の検出(テーマ3)

【背景と目的】
 降水の遠隔探査データは強雨・大雨の空間分布や統計的特徴を把握するために有用であり,衛星による全球規模の降水データも気候学的特徴を議論できる程に蓄積されつつある.しかし,局所的かつ稀に発生する極端現象を抽出するためには,観測特性・推定特性・降水特性に依る推定誤差に関する評価が依然として重要であり,最適・最尤推定値のさらなる追究が求められる.
本研究では,衛星搭載降雨レーダ(TRMM PR)データによる強雨・大雨の地域的特徴の検出,さらにはこれらの情報活用可能性の議論の深化に向けて,地上・衛星観測データに基づく降水表現の現状整理と課題の抽出・解決に取り組む.

【研究成果】
 TRMM PRを主に用いて,降水推定特性の評価,降水の局所的特徴の検出と顕著な降水イベントの出現状況の調査を実施した.
 はじめにAMeDAS10分値とのマッチアップ解析により,TRMM PR気候値のサンプリング誤差がリトリーバル誤差より十分に低いことを確認した.続いて,空間分解能0.1度の降水気候値の特長と不確定性の傾向を明らかにするため,9種の広域降水データセットによる降水の地域的特徴に関する比較研究を実施し,地上雨量計観測網の空間内挿やデータ数密度に関する不確実性を示唆する結果を得た.また,TRMM PRデータを活用して降水システムの群特性を調べると,急峻な山岳域や海岸付近において地理的に固定された局所的特徴が検出された.この結果はTRMM PRデータが降水の空間非一様性を説明する有力なツールである可能性を示したが,強雨の統計処理に影響を及ぼす系統的なリトリーバル誤差が見出されたため,気候変動や極端現象の解釈におけるアルゴリズム開発の重要性を改めて認識することとなった.例えば,チリのAlejandro Selkirk 島の0.1度気候値は世界最大であったが,これは地表面クラッターの識別エラーと考えられる.問題解決に向けてアルゴリズム改訂の影響評価も進めており,クラッター内の降水推定等,入射角依存性の地域補正手法の開発に取り組んでいる.
 不確定性の理解と解決に向けた研究と並行して,利用研究も進めている.一例として, 15年間で観測された1.0億の降水システムのうち,各雨域の雨量をもとにして求めた上位1,000の“大雨”の位置を図1に示す.強雨の分布とは大きく異なり,台風出現頻度および衛星通過頻度が高い日本付近の観測数が顕著に表れている.ここでは既知の強雨等に関する推定誤差の影響が小さくなるように極端現象を定義したが,上述の各種誤差要因による影響については引き続き精査する必要がある.


図 1 1998-2012年におけるAreal rainfall [km2 mm h-1]上位1,000の降水システムの分布.
円の色・大きさは各降水域の等価直径

【関連論文リスト】

  • 土井啓史,広瀬正史:TRMM PRとAMeDASによる降水季節変化の地域的特徴,日本気象学会2012年度春季大会予稿集,p. 374.2012. URL
  • hirose, M.: Fine-scale rainfall characteristics stratified by scale-based precipitation systems, Proc. of the 4th TRMM and GPM international science conference, 2012.
  • Hirose, M.: Climatological characteristics of TRMM PR rainfall, Proc. of Asia Oceania Geosciences Society meeting, AS15-A014, 2013. URL
  • 広瀬正史: 衛星搭載降雨レーダデータの気候学的利用について,日本気象学会2013年度秋季大会予稿集, p.120, 2013.
  • Hirose, M.: Evaluation of rainfall climatology from the long-term spaceborne radar data (2), JAXA Joint PI workshop, PMM session, 2014.