転波列性段波状サージの流下特性に関する研究(テーマ3)

【背景と目的】
 近年,強い降雨が長時間継続することにより通常の洪水流とは異なる段波状の流れによると考えられる災害が報告されている.これは土石流の場合もあるが濃度の低い土砂流の場合もある.また,このような段波状の流れが短時間の内に多数流下することが報告されている.多数の土石流流下現象は中国の粘性土石流と呼ばれる土石流がよく知られているが,ヨーロッパアルプスでも欧州の研究者によって近年観測されるようになった.しかし,この領域の研究はまだ不明な点が多い.本研究ではこのような現象の生成機構やその多数の段波状の特性を明らかにすることを目的としている.特に,ここでの目的は提案している生成機構と実際の段波状の土石流との関係を明らかにするとともに,波動方程式の導出と実験結果による関係を明らかにするとことを目的としている.

【研究成果】
 多数の段波状の土砂流流下生成機構については,従来の土石流発生機構が河道における堆積土砂の静的安定条件に基づくものであるのに対し,それとは全く異なる,流れの不安定性による転波列の一種であることを提案してきている.ここでは特に実際に観測された段波状の土石流における流下条件と提案しているモデル(理論)との関係を明らかにした.観測はオーストリア西部・ヨーロッパアルプス東部のLattenbachで観測されたものである.提案しているモデル(理論)はここでの観測結果や日本の桜島での観測結果をよく説明できることを明らかにし,そのモデル妥当性が明らかにした.その成果は文献3)に示している.
 また,傾斜水路上の個体粒子を含有した流れの不安定性による転波列の波動性について検討し,土砂を含有する流れの浅水流の運動方程式を用いた波動方程式を導出した.導出した波動方程式はBergurs方程式とKdV方程式を合わせた形の方程式となっている.導出過程におけるG-M変換の速度パラメータに長波の波速を用いると,Bergurs方程式とKdV方程式を合わせた形の方程式はBurgers方程式の形になることを示し,その波動方程式が実験による波形とよく一致することを明らかにした.これらの成果は文献1),2)に示している.

【関連論文リスト】

  • 1) 新井宗之,安田孝志,中川一:山地河道における浅水流に関する波動方程式の導出とその解析解の検討,土木学会論文集B1(水工学), Vol.69, No.4, I_961-I966, 2013.2. PDF
  • 2) M. Arai and H. Nakagawa: “A study on wave equation and solutions of shallow water on inclined channel”, Proceedings of the 12th  International Symposium on River Sedimentation, ISRS 2013, Kyoto Japan, pp.553-558, 2013.9. PDF
  • 3) M.Arai, J.Huebl, R.Kaitna : Occurrence conditions of roll waves for three grain-fluid models and comparison with results from experiments and field observation, Geophysical Journal International, Oxford University Press (The Royal Astronomical Society), Vol.195 (3), pp.1464-1480, 2013.10. PDF