砂質堤体土の強度定数評価のための三軸試験条件の考察(テーマ4)

【背景と目的】
 従来の「河川堤防の構造検討の手引き」では,堤防の浸透時のすべり破壊を照査する際の円弧すべり解析に用いる強度定数を,砂質土や礫質土であればCU試験で求めることとしてきたが,平成24年2月の改訂により, 試験やCD試験も推奨されることになり,試験条件の自由度が高まった。本研究チームでは,試験時の排水条件によって得られる強度定数は大きく異なることを示し,特にゆる詰め構造を持った砂礫堤防土におけるCD条件での内部摩擦角?dは実際の堤防土の安定性を過大評価する可能性があることを指摘した。砂礫以外の土質においても,試験条件によって得られる強度定数は当然異なるため,土質区分だけではなく,堤体土の粒度や密度などの土質情報によって,堤防の照査に用いる強度定数を得るための三軸試験の適切な試験条件を示すガイドラインが必要である。その整備にあたり,本研究チームは様々な実堤防試料を用いて各種の排水条件での試験を実施している。

  
図1 各供試体の粒度組成

【研究成果】
 ここでは,淀川堤防から採取した乱れの少ない砂質試料を用いた三軸試験における,CD,CUの各種条件で得られた強度定数を比較した結果を示す。実験試料は,淀川下流堤防の天端から深度1〜2m,2〜3m,3〜4m,4〜5mおよび5〜6mの位置からサンドサンプラーによって乱れの少ない砂質試料(以下,各深度の試料を試料1,2,3,4,5と記す)を採取し,凍結して保管した,凍結したまま成型し,三軸試験を行った。図1に全試験の供試体毎に求めた粒度曲線を示す。
 図2〜4に,三軸試験結果により得られる破壊時のモールの応力円と破壊規準を示し,図中にそれぞれの強度定数を併記する。 CUbar試験は全応力でも整理しており,CU試験結果に相当する。CU試験の場合,いずれの試料も拘束圧に整合したモール円が得られず,包絡線で強度定数を設定するのが難しい。これは,供試体毎のばらつきを反映した試験結果であると考えられる。一方, 試験やCD試験では,各拘束圧の試験結果は整合しており,モールの応力円から破壊規準線が決まる。これらの試験条件においては,供試体ごとに異なるせん断中のダイレイタンシー特性が試験結果に反映されるためである。
 以上の結果より,本試験で用いた「乱れの少ない試料」ではCU試験で強度定数を得るにはばらつきが大きく,明確に決定しづらい。一方, 試験,CD試験は強度定数の決定は容易であるが,それを円弧すべり解析に用いるには合理性は現在のところない。なお,本報で用いた堤体土のように比較的密詰めの試料においては, CUbarとCD試験の強度定数を比較すると,非排水せん断時の正のダイレイタンシー効果を反映し,やや 試験の強度定数が大きくなる傾向がある。

  
図2 全応力のモールの応力円(CU)  図3 有効応力のモールの応力円(CUbar) 図4 全応力のモールの応力円(CD)

【関連論文リスト】

  • 小高猛司,崔瑛,李 圭太,兼松祐志,小林芳樹:三軸試験の試験条件が河川堤防土の強度定数に及ぼす影響河川技術論文集(査読有),第19 卷,pp.81-87, 2013.
  • 小高猛司,崔瑛,小林芳樹,兼松祐志,李圭太:河川堤防砂の構造の程度が力学特性の評価に及ぼす影響,河川技術論文集19, pp. 165-177, 2013.
  • 小高猛司,李圭太,崔瑛,兼松祐志,小林芳樹:砂質堤体土の強度定数評価のための三軸試験条件の考察,地盤工学から見た堤防技術シンポジウム,2013.
  • 小林芳樹,兼松祐志,小高猛司,崔瑛石原 雅規原 忠李 圭太,ボーリング試料による礫地盤の粒度評価と液状化対象土層の判定に関する考察,平成25年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,CD-ROM, 2014. 3.
  • 小高猛司,崔瑛小林芳樹,兼松祐志,森涼香,李圭太,坪田邦治,加藤雅也:液状化が懸念される堤防基礎礫質土の大型三軸試験,第48回地盤工学会研究発表会講演集,CD-ROM, 2013.7.
  • 小高猛司,崔瑛,兼松祐志,森涼香,小林芳樹,李圭太:各種三軸試験条件で得られる河川堤防土の強度定数の評価,第48回地盤工学会研究発表会講演集,CD-ROM, 2013.7.
  • 大野雄貴,小高猛司,崔瑛,吉田賢史:異方応力条件下の粘土のひずみ制御繰返し単純せん断試験,第68回土木学会年次学術講演会CD-ROM, 2013.8.
  • 兼松祐志,小林芳樹,小高猛司,崔瑛,李圭太:細粒分を多く含む堤防砂質土の三軸試験のシミュレーション,第68回土木学会年次学術講演会CD-ROM, 2013.8.
  • 小林芳樹,兼松祐志,小高猛司,崔瑛,李圭太:細粒分を多く含む堤体砂質土の各種三軸試験による力学特性の評価,第68回土木学会年次学術講演会CD-ROM, 2013.8.
  • T. Kodaka, Y. Cui, S. Mori and Y. Kanematsu: Soil structure in gravel-mixed sand specimen and its influence on mechanical behavior, Proceedings of the 18th International Conference on Soil Mechanics and Geotechnical Engineering, Paris, 2013.
  • 小高猛司,崔瑛,李 圭太,他2 名:河川堤防土の強度定数決定のための試験条件についての一考察,第25 回中部地盤工学シンポジウム論文集(査読有),pp. 55-60, 2013.
  • 兼松祐志,森涼香,小高猛司,崔瑛,李圭太:初期含水比の違いが河川堤防砂の力学特性に及ぼす影響とその三軸試験シミュレーション,第24回中部地盤工学シンポジウム論文集,2012.8.
  • 兼松祐志,小高猛司,崔瑛,森涼香,李圭太:供試体再構成時の含水比の違いによる礫混じり砂の変形,強度特性の変化,第47回地盤工学会研究発表会講演集,CD-ROM, pp.341-342, 2012.7.
  • 森涼香,小高猛司,崔瑛,兼松祐志,李圭太:構造の異なる礫混じり砂再構成供試体の三軸試験シミュレーション,第47回地盤工学会研究発表会講演集,CD-ROM, pp.343-344, 2012.7.
  • 森涼香,兼松祐志,小高猛司,崔瑛,李圭太:再構成供試体の骨格構造が力学挙動に及ぼす影響の三軸シミュレーションによる検討,第67回年次土木学会学術講演会講演概要集,V-366, pp.731-732, 2012. 9.
  • 小林芳樹,間宮健太,森涼香,兼松祐志,小高猛司,崔瑛,李圭太,坪田邦治,加藤雅也:非排水および排水せん断時のゆる詰め砂礫地盤の力学挙動に関する考察,平成24年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,V-020, pp.203-204, 2013. 3.
  • 兼松祐志,森 涼香,小林芳樹,間宮健太,小高猛司,崔瑛,李圭太:河川堤防土の力学特性の評価する上での排水条件の検討,平成24年度土木学会中部支部研究発表会講演概要集,V-031, pp.225-226, 2013. 3.