溶接未溶着を有する土木鋼構造物の破壊メカニズムの解明と耐震性能照査法の開発(テーマ1)
【背景と目的】
溶接未溶着を有する構造物の耐震性および照査法に関する研究は,共同研究者らがここ数年着手したばかりであるが,溶接未溶着が大きい場合耐震性が著しく低下することが実験的に明らかにされている.しかしながら,溶接脚長のサイズなど溶接部の性状などに大きく影響され,そのメカニズムを必ずしも解明できていないのが現状である.
そこで,本課題では,溶着未溶着の高さ以外に,フィレット半径,溶接ビード脚長などを取り上げ,これらのパラメータが部材の耐震性能に及ぼす影響を検証したうえで,溶接未溶着などの溶接欠陥を有する既設構造物の大地震時挙動を解明するとともに,補修・補強の必要性を判定する基準を提案することを目的としている.
【研究成果】
本課題では鋼製橋脚隅角部の十字継手溶接部における未溶着高さ,フィレット半径,溶接ビード脚長が変形能およびエネルギー吸収量に与える影響について,縮小モデルを用いた繰り返し載荷実験を行うことで検証した.
得られた知見を以下に示す.
1. 未溶着部からき裂が発生する状況において,未溶着高さが変形能・エネルギー吸収量に及ぼす影響は大きく,耐震性能に直接的に影響し,未溶着高さが大きい場合,変形能・エネルギー吸収量共に低下する.
2. 同じく未溶着部からき裂が発生する状況において,フィレットが大きいものほどエネルギー吸収量も大きく,フィレット半径がエネルギー吸収量に与える影響は非常に大きい.
3. き裂が柱フランジに進展する場合(板厚12mmに対して溶接ビード脚長が15mm程度),未溶着高さやフィレット半径は変形能・エネルギー吸収量共にあまり影響せず,対して,未溶着部からき裂が発生する場合(板厚12mmに対して溶接ビード脚長が9mm程度),未溶着高さが8mm程度存在すると急激に変形能が低下し,エネルギー吸収量も非常に小さくなる.
4. 溶接ビード脚長が9mm(板厚に対し75%)程度の場合,エネルギー吸収量は未溶着高さの影響を強く受けるが,溶接ビード脚長が15mm(板厚に対し125%)程度存在すると,9mm程度の場合に比べ影響は小さくなる(図-1).
5. 溶接ビード脚長が十分(板厚12mmに対して15mm程度)存在することで,比較的大きな溶接未溶着が存在する場合においても,致命的な耐震性能の低下を避けられる可能性がある.
図-1 耐震性能に及ぼすビード脚長の影響
図-2 既設構造物点検フローチャート
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