相似則を考慮した分散型サブストラクチャ応答実験システムによる土木構造物の制震構造設計法の確立

【背景と目的】
 橋梁などの構造物に犠牲部材として挿入し,その部材に地震エネルギーを吸収させることで,主構造の損傷を最小限に抑えて健全性を保つことができる座屈拘束ブレース(BRB)の研究開発が精力的に実施されている.本研究は,複数の座屈拘束ブレースを備えた橋脚を対象として,その橋脚に地震動を入力し,制震性能を検証するものである.既往の研究は,ブレースを設置した橋梁の部分模型に対して,振動台による動的加振によって制震効果を検討した事例等がある.しかし,動的加振における実験装置の能力から,実験供試体のサイズが制限されるなど制約条件が多い.本研究は新たに分散した実験システムを同期させ,油圧アクチュエータによる載荷装置と,FEM解析プログラムを融合した分散型サブストラクチャ応答実験を構築し,その実験システムの応答性を検証した上で,並列に設置した2基の座屈拘束ブレースによる鋼製橋脚の制震性能を総合的に検証するものである.

  
図-1 BRB逆V字配置の数値解析モデル

【研究成果】
 昨年度までの研究により,分散型ハイブリッド実験を実施するためのハードウェアを整備し,油圧アクチュエータ制御ソフトの開発し,ソフトによる制御精度が確保されることを確認した.今年度は,開発した制御システムを用いて,軸降伏型ダンパーを添加することによる鋼製橋脚の制震効果をハイブリッド実験により検証した.対象とする鋼製橋脚は1層門型タイプのラーメン橋脚とし,これをファイバー要素により精密に断面分割した数値解析モデルを適用した.ダンパーを配置した橋脚の数値解析モデルの外観を図−1に例示する.制震化のため,軸降伏型ダンパーとして高機能座屈拘束ブレース(BRB)を適用し,BRBの配置形式を2通りに変化させた.配置形式の一つは幾何学的に配置バランスの良い,2基の高機能座屈拘束ブレース(BRB)を逆V字型に配置であり,対比のため1基のBRBを片流れに配置した鋼製橋脚を仮定した.BRBを配置したことによる橋脚の水平剛性と,固有周期は同一として,地震時応答を比較検証した.ハイブリッド実験において,逆V字型配置の制震効果を検証する際には,開発した複数油圧アクチュエータを制御システムの特徴を活かし,複数の静的油圧アクチュエータ制御によるハイブリッド実験システムにより2基のBRBをそれぞれ独立した実験装置に組み込んで地震時応答を検証し,個々のBRBの応答特性を精密に記録した.実験システムを図−2に示す.制震化に適用したBRBの設計にあたっては,相似則を考慮した上で,ブレース部材の全長に対する適切な塑性変形長さの比率を仮定する設計フローを提案し,この設計手法による制震効果を明らかにした.

  
図-2 ハイブリッド実験システム

  
 図-3 ブレース(BRB)の細部構         図-4 ラーメン橋脚の水平剛性の変化

 研究の結果得られた知見を列記する.1)実大スケールのラーメン橋脚に対する地震時応答をハイブリッド実験で検証し,提案するBRBによる制震化により,レベル2地震動の3波連続入力に対しても,橋脚の機能が部材健全度2(橋脚の最大応答変位が弾性応答の2.8倍以内に収まり,残留変位が橋脚高さの1/300以内に収まること)を満足することを確認した.適用した制震ブレースの部材構成を図-3に示す.BRBの設計にあたっては,制震ブレース部材長Lの決定に必要な条件式を示し,図−4に示すブレースの等価剛性に考慮したBRB設計手法が有効であることを明らかにした.2)ハイブリッド実験の数値演算のため,前掲した図-1に示すような制震ブレースと接合ガセットを模擬したラーメン橋脚の数値解析モデルを構築した.この解析モデルを対象にハイブリッド実験を実施し,設計したBRBによって充分な制震効果が得られ,目標とした部材健全度を満たすことを確認した.3)鋼製ラーメン橋脚を制震化するための,BRBの配置方式について逆V字と片流れを提案して比較した.BRB設置後の橋脚の水平剛性と固有周期が等しい場合,入力した地震動の範囲では,最大応答と残留変位がほぼ同等となることを示した.ただし,BRBの累積塑性変形(CID)に着目すると,片流れは限界値0.7の82%に達する値となることを確認した.今後の検討として,BRBの制震ブレース部材長が短いほど全体座屈を防止するための拘束部材は小型化が可能であるが,総じて,適用するブレース断面自体の諸元が非常に大型となり,実構造へ適用可能・設計製作可能なBRBの開発を進める必要である.さらに,BRBを接合するためのガセットも大型となるので,BRBとその接合部構造を含めた設計法に検討を行う予定である.