地震・津波・衝突による複合的外力を受ける橋梁構造物の応答性状に関する研究(テーマ1)

【背景と目的】
 東北地方太平洋沖地震では構造物に対して地震による被害や津波による橋梁流出等の直接的被害の他,漂流物の衝突による損傷といった2次的被害も甚大であった.大型船舶が多い日本の主要港湾において同じような震災を受けた場合には被害の拡大化が予想され,これまでの地震の影響に加え,津波との複合事象に対しても総合的な対策が必要と考えられる.地震,津波といった個々の事象に対する研究は多いが,地震と津波のマルチハザードによる土木構造物への影響を検討した研究は見当たらない.そこで本研究では,地震・津波・衝突の複合現象に着目した長大橋梁の応答に関する数値シミュレーションを実施し,それらを構造設計へ反映するための構造物に対する要求性能および余震作用も含めた地震後の供用性に対する評価方法を構築することを目的としている.

  
図-1 漂流船舶衝突イメージ        図-2 船舶衝突による橋梁全体の応答   

  
図-3 3次元津波解析      図-4 ケーソン基礎−地盤系    図-5 津波波力の作用         

【研究成果】
 これまでに,長大橋梁を対象として,地震応答解析と,同一震源断層から推定される津波によって漂流物した大型船舶の衝突(図-1)に関する複合現象の検討を行ってきた.これは東北地方太平洋沖地震において発生した津波による漂流物の衝突被害の発生が背景にあり,同じ事象が日本の主要港湾において発生した場合には被害の拡大化が懸念されることから検討を実施したものである.南海トラフの4連動地震を想定した震源断層から,ハイブリッド合成法で作成した広帯域地震波による地震応答解析と,同一震源断層による波源モデルを用いた津波伝播解析を組み合せて,対象橋梁に対する地震と津波の複合現象を再現し,その後漂流してきた大型船舶が衝突する現象を,橋梁全体系モデルを用いた数値シミュレーションで明らかにした(図-2).その結果,地震によって主塔基部が受けた比較的小さな損傷で残留したひずみが衝突力によって助長され,地震の応答を考慮しないケースよりも大きな圧縮ひずみが生じた.それに起因して主塔頂部の残留変位が大きくなる結果となり,地震による損傷レベルが比較的小さいとしても,漂流物の衝突といった二次的被害によってその被害の拡大化が懸念されるといった知見が得られた.
 次に,同一震源断層による地震と津波作用による構造物への影響を明らかにするために,オープンソースの数値流体解析コードOpenFOAMを用いた3次元津波解析(図-3)と,得られた津波波力を橋梁全体系モデル(図-4に示すウィンクラーモデルを基礎−地盤系モデルに採用)に動的に入力する応答解析を実施し,津波作用時の全体挙動,ケーソン基礎の浮き上りや滑動の有無などを調べた.その結果,ケーソン基礎は図-5に示すように僅かな浮き上りが生じたが,地震による損傷範囲が津波波力によって広がることはなく,基礎の残留変形も見られなかったことから,本検討における想定では津波波力の影響は小さいという結論を得た.結果的にマルチハザード特有の被害モードは得られなかったが,本研究はこれら複合事象を評価するための手法構築に享受できたと考えられる.

【関連論文リスト】

  • 馬越一也,葛 漢彬,野中哲也,原田隆典,村上啓介:津波襲来時における大型漂流物の長大橋衝突シミュレーション,土木学会論文集B3(海洋開発),Vol.68,No.2,pp.I_222-I_227,2012. URL
  • 馬越一也,葛 漢彬,野中哲也,本橋英樹,原田隆典,宇佐美勉:地震被害を受けた長大橋への津波による大型漂流物の衝突に関する解析的アプローチ,構造工学論文集,Vol.59A,pp.405-416,2013. URL
  • 馬越一也,葛 漢彬,中村真貴,野中哲也:大型ケーソン基礎を有する長大斜張橋への地震と津波の影響に関する解析的検討,土木学会論文集A1(構造・地震工学),Vol.70,No.4,2014.(2014年5月に掲載予定)