鉄筋コンクリートの空間構造の性能評価(コンクリート物性)(テーマ2)

【背景と目的】
 コンクリート系の空間構造の長期性状の評価に際しては,先ずコンクリートの物性値の把握が基本的な命題である。一方,各種物性値は使用材料や調合により変動し,また,竣工からの経年劣化によってもある程度変化していく可能性がある。そして,特にRCシェル構造物などの場合は,実際の構造物におけるコンクリートのヤング係数や圧縮強度の値と設計値との間に齟齬があると,その構造物の構造安全性が損なわれることも考えられる。今後は,コンクリートの乾燥収縮ひび割れの影響も厳密に考慮した設計手法の確立が期待される。

【研究成果】
 本研究では,以下の事項について検討を行った。
@日常環境下の乾燥がコンクリートの力学的性質および乾燥収縮ひずみに及ぼす影響の検討
A調合および使用材料の影響を考慮したコンクリートの乾燥収縮ひずみの推定方法の検討
B粘弾塑性サスペンション要素法による乾燥収縮挙動のシミュレーション
 上記@に関しては,骨材寸法やコンクリート部材の拘束・持続荷重状態を変化させて,日常環境下での乾燥に伴いコンクリート内部に発生するひび割れがコンクリートの乾燥収縮ひずみおよび力学的性質に及ぼす影響について検討した。そして,その結果,以下の知見を得た。
(1)寸法の大きな単一粒度骨材を用いたコンクリートでは,乾燥により,コンクリート内部に微細ひび割れが発生し,そのことに起因して,乾燥収縮ひずみが小さく測定される。また,ヤング係数が大幅に低下する。
(2)拘束・持続荷重状態がコンクリートの乾燥に伴うヤング係数の低下度合いに及ぼす影響は小さい。

   
図1 骨材寸法の大きいコンクリートに発生する内部ひび割れ    図2 コンクリートのヤング係数と骨材寸法の関係

 上記Aに関しては,骨材の乾燥収縮ひずみの評価指標を見出すための検討を行い,その結果,以下の知見を得た。
(1)細・粗骨材の気乾含水率および比表面積,粗骨材の直接的な乾燥収縮ひずみの測定値などと骨材原石の乾燥収縮ひずみとの間に高い相関が見られる。したがって,これらの値が骨材の乾燥収縮ひずみの評価指標となり得る。
(2)いずれの評価指標にも,骨材の乾燥収縮ひずみとの対応の悪い骨材が必ず一部に存在するので,骨材の乾燥収縮ひずみの推定にあたっては,このことに対する配慮が必要となる。
(3)骨材の乾燥収縮ひずみは,コンクリートの乾燥収縮ひずみに直接的な影響を及ぼす。

                               表1 骨材の乾燥収縮ひずみの評価試験方法。

   
図3 コンクリートと骨材の乾燥収縮ひずみの関係                    

 上記Bについては,従来破壊解析手法として用いてきた粘弾塑性サスペンション要素法を用いて、乾燥収縮現象の解析的再現を試みた。この解析手法は,コンクリートを骨材とモルタルの二相とみなした非連続体モデルによる解析でありひび割れの発生が視覚的に再現できる特徴がある。この結果として,図-4に示すように,拘束状況によってひび割れの発生状況が変化することや,収縮によるひび割れが発生しやすいコンクリート壁の開口部角部から発生するひび割れを再現できることがわかった。


図4 拘束状況によるコンクリートのひび割れ発生状況の変化